嘉藤笑子さんレクチャー「地球環境とコミュニティにおけるアート活動を考察する。」

去る 7月21日(日)午前中に、嘉藤笑子さんにお越し頂き、綿覚ビルの一階にてレクチャーが行われました。

“ANTHROPOCENE(アンスロポセン)人新世”
「人新世」とは何か? 地球規模の状況を捉える、地質学の言葉ということ。ジュラ紀は中生代とか・・そんな規模の言葉です。人類が優占する新たな年代が「人新世(ANTHROPOCENE)」であり、これがいま国際地質会議などから人類の問題だと議論されている。これが、ART FARMing につながる?・・そんな大それた、いや、でもはっきり明確な言葉を持っていなかったとしても、日々の都市生活は、常に世界の出来事につながっているのです。

“人新世の言葉を扱ったのは、美術においても<人新世>という時代のなかで人間(アーティスト)が新人世の時代になにかアプローチすること(メッセージを伝える、作品によって危機的状況を明確化すること)ではないかと思ったからです。
実際に、地球と人間の関係からアートが生まれています。
環境を考えることは、人間の生きる様相=アートを営むと同軸で語られるべきことだと考えます。”

嘉藤笑子さんより

「人新世」とは、自然を人類が支配している状態、地球規模で人間が主となる状況です。筆者の主観ですが、「地球のことを考えて、環境を考えて、エコでいこう、共存しよう(できる)。」というようなキャッチーな考えは甘くて、既に現代は「人類が地球を優占する年代」であるという認識に立つということではないかと思います。地質学ですから、ここには悲観や楽観が含まれているものではなく、現状認識の言葉です。パウル・クルッツェン(大気科学者)、ユージーン・ストーマ―(生物学者)によって導入された言葉といいます。

地球は自然のものだと信じているのはなく、地球が人間優先によって破壊していく姿に抗する動きである「アンチ人新世」も起こってきます。
パウル・クルッツェンが、オゾン層破壊による大気圏の穴を発見したことによるものです。

資料映像として「人新世」を扱った映画(Anthropocene – Official U.S. Trailer / 2019)も少し紹介されました。

人間自体が地球の癌であるとか、象牙彫刻のシーンなどを見ると自然自体を搾取するとか、その規模の大きさに愕然とする内容です。美しい映像の作られ方もあって、引き込まれます。

「人新世」は、美術手帖 2019年2月号
(T.J. ディーモスの思想 https://www.bijutsu.press/books/3235/
で特集を組まれるものの、日本では、あまり重要視されていないのではないかと嘉藤さんは話します。世界のアートの状況は「人新世」を積極的に取り込み、語り、検証し、実践する作品が多く展開されているとスライドを続けられました。
2014年 第9回台北ビエンナーレのテーマは、ニコラス・ブリオー(Nicolas Bourriaud)によって「大疾患:人新世におけるアート」とされました。環境とコミュニティに対峙する作品が並び、地元作家が 52名が選出され、このビエンナーレののちに、台湾にコミュニティ、環境問題を考える市民活動が育つ根をはることに成功したそうです。・・以下、箇条書きになります・・

ジョーン・ジョナス(Joan Jonas)によるビデオパフォーマンス「氷河の下で」。地球の温暖化に関する作品が依頼され上演。
ポ・チン・ハン(Po-Chin Huang)AI 以前の、生産ラインの模擬的にインスタレーションする。

ハン・チン・ペン(Hung-Chin Peng)「ノアの箱舟」、3Dプリンターでつくられた、ひねりのあるノアの箱舟。

ユ・チェンワン(Yu-Chen Wang)マンチェスターで、新聞の輪転機をつくる工場でのパフォーマンス。工業化によって変化する問題を扱う。

Plan-Matter Neo Eden Project「サワック族の家」(2009年)コミュニティ再生の視覚化。HSUE Su-chen, LU Chien-ming 作家二人組。
 
2018年 第11回 台北ビエンナーレのテーマは「ポストネイチャー 生態系としての美術館」。
本展の台湾出身のキュレター:ウー・マリーは、2014年の台北ビエンナーレで環境問題を扱った作品《Art as Environment – A Cultural Action at the Plum Tree Creek》を発表したアーティストでもある。

同じく、2018年 ドイツの芸術祭で十年に一度行われる ミュンスター彫刻プロジェクトでは もともとミュンスターにある市民農園で十年間の日記を書いてもらい、それを提示する「土に語りかければ応えてくれる」Jermy Deller の作品が展開されました。

オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の「ウェザー・プロジェクト」(2003年)テートモダンで発表された人工太陽の展示も紹介されました。仮説的につくられた人工太陽の光を浴びて、鑑賞者が集っています。自然エネルギーでつくられたソーラー電池式のキット「リトルサン」を販売し、普及させることが、地球上で二十億人はいるという、電気すら行き届いていない国、地域に光を届けることができると繋げていければ、社会が良い方向へ進むのだと示されるものです。展示会場での人工太陽は美しいですが、この情報を知るか知らないかで、見え方が変わってきます。

建築家の仕事として、ジャン・ヌーベル(Jean Nouvel)の「垂直ガーデン」概念、藤森照信による、生活空間と時自然の融合に向かう「タンポポハウス」などが紹介されました。

先の美術手帖でも特集されていた TJ.ディーモスは「資本新世」という言葉を唱えています。経済の問題を解決しなければ「人新世」の問題は解決しないとするものです。たとえば福島原発の事故を受けて、日本に住む私たちが、それに言及するのは自然なことだと語られました。

レクチャーの最後には、無意識にでも ART FARMing が「人新世」の問題に関係してくる。強制することでも、されることでもないが、そんな空気を感じていたのもかもしれないと意見が交わされました。

嘉藤笑子さん、ありがとうございました!

以下、レクチャー開催に祭して発表された情報を転載し、補完いたします。
村田 仁 記

ART FARMingレクチャーシリーズ② 嘉藤笑子
タイトル:地球環境とコミュニティにおけるアート活動を考察する。
副題:2019イスタンブール・ビエンナーレ&ヴェネティア・ビエンナーレから学ぶ

講師:嘉藤笑子 AAN代表/キュレイター/武蔵野美術大学芸術文化学科非常勤講師

わたしたちの地球は、地質学的に「人新世」(アンスロポセン)という時期に突入し、産業革命以来の人類の所業が気象異常や温暖化などをもたらす危機的状況にあるといわれています。T・Jディーモス(米)によれば、『このトレンドは諸芸術・人文学・社会科学において拡大しつつある言説であり(中略)、今日の文化実戦、アート展、カタログ出版などにも表れている』と述べているように、アートの世界でも大きく扱われている問題となっています。しかし、こうした地球危機をアーティストが救うということは、とても重すぎる任務であって、過度な期待はすべきではありません。したがって、それぞれが危機的状況を意識しながら、アートができる処方箋を描いていくこと、独自のメッセージの発信、現在社会のなかの可能性を喚起していく行動やプロジェクトの推進などによって表現と繋げることは可能だといえるでしょう。アーティストと市民が地球やアートを一緒に考えていくことで、環境破壊を抗する機会となるでしょう。
さらに、世界的に有名なヴェネティア・ビエンナーレ(2019)の金獅子賞が、環境をテーマにしたリトアニア館だったことは偶然ではありません。そして、二コラ・ブリオー(仏)がディレクターを務めるイスタンブール・ビエンナーレ(2019)でも社会的連携や人新世の影響下におる地球問題を掘りさげています。現代社会を反映している国際アートフェスティバルが、大きく地球問題にシフトしていることを通して地域社会の創造的可能性を掘り下げていきます。

<嘉藤笑子プロフィール>
東京出身・拠点とする。跡見学園女子大学/武蔵野美術大学兼任講師。特定非営利活動法人Art Autonomy Network[AAN]理事長(ディレクター/キュレーター)。
1995年6月、ロンドン大学コートールド美術研究機関、修士課程研究生修了。1993年6月、シティ大学大学院文化政策運営学部博物館美術館運営学科修士課程卒業。Master of Arts(修士)。
日本橋大伝馬町のクリエイター集合体”Creative Hub131″にAAN事務局の拠点を置き、国内外のアートプロジェクトやアーティストネットワークを手掛ける。日本橋では「DIALOGUES国際現代美術展」海外x日本の2人展x3期展(2015)など多数企画している。2001年から墨田区、横浜、沖縄、神山などにおいて地域プロジェクトに数多く携わっている。KAIR神山アーティスト・イン・レジデンス(徳島県神山町)の評価委員(2005~2018まで)。木村崇人「こもれび」プロジェクト2008、カナダ・トロントの芸術祭Big on BloorにてLantern Origami Workshop2018、神山アートホテル(KAHO)2019など学生や一般受講生との共同事業がある。
現在、文化資源学会/日本文化政策学会会員、向島学会理事。NICA:Nihonbashi Institute of Cotenmporary Artsのキュレトリアル・ディレクター担当、「藝術英語塾」主宰。